今回のテーマは、最もポピュラーな木造住宅の工法である「在来木造工法」について耐震的な観点から解説します。在来木造工法は、別名で木造軸組工法とも呼ばれ現在の日本で最も棟数が多い住宅の工法です。また、「在来」という名前からもわかるように、日本での歴史も長い工法とも言えます。
家づくりを検討中の方から「在来木造は地震に弱いのですか?それとも強いのですか?」と質問を受けることも多いのですが、正直、この質問に一言で答えるのはとても難しいというのが私の本音です。なぜなら、日本で最も多い工法だからこそ建築会社や設計者によって、選ぶ材料や建築方法に様々な違いがあるからです。それをひとくくりで「地震に弱い」とか、「地震に強い」とは言えないのです。今回はそこを詳しく解説していきたいと思います。
在来木造の大きな特徴は「軸組工法」と言われるように、「柱」や「梁」というような軸となる構造躯体が主体になります。同じ木造でも、2×4材の枠に「構造用合板」を貼った「耐力壁」のみで構造を形成する「2×4工法」と比べるとそこが最大の違いです。
さらに、その軸組の主要構造部分にどういう木材を使っているか、ということが非常に重要になります。以前「耐震住宅専用の強い建材はあるの?」という回で解説しましたが、どのような木材を使うかによって耐震性は大きく変わってしまうことをぜひ理解してほしいと思います。一般的には「どんな樹種を使っているか」が気になるかもしれませんが、本当に気にしてほしいのは、樹種よりもその木材が「乾燥しているのか否か」という点です。木材にとって「乾燥」というのは非常に重要な意味を持ちます。
ご存知のように木は植物です。当然、切る前は地面から水分を吸い上げて生きています。成長中の木を切った時点ではまだ多くの水分を木の内部に持っているわけです。水分を多く持った木材、つまり乾燥していない木材をそのまま使用すると「強度」や「変形」などの様々なデメリットがあります。未乾燥の木材は強度が低く、建ててから乾燥していくので柱や梁が「反ったり」「ゆがんだり」します。しっかりと乾燥させることで、木材の強度は向上し、建築してからの「反り」や「ゆがみ」などの変形が大きく軽減されます。「含水率」という水が含まれる割合を20%以下にした木材を使うことが良いと、よく言われています。
次に、その木材の「強度が数値化されているか否か」ということです。木は「鉄」や「コンクリート」のような人工的に作られた材ではありません。そのため強度は様々です。「スギ」「ヒノキ」「マツ」というような樹種によっても強度は違いますが、それだけではありません。気温や日当たりなどの育った環境によっても大きく異なります。
例えば、九州のスギと東北のスギでは気温の違いで成長の速度が異なり、それ故に強度が変わってきます。おなじ地域でも、山の南面と北面では同様の理由で、同じ太さでも強度は変わります。つまり、柱が太いからといって強い材であるとは限らないということです。
「当社はヒノキの4寸角をつかっているから丈夫です」というようなセールストークの会社は、私から言わせればとてもナンセンスということになります。しかしながら、木材会社が天然の木材の全ての強度を計って、分類して、出荷する、ということが現実的に難しいということも事実です。それ故に、いまだに太さと樹種で設計者が構造を計画しているのが現状でもあります。
そこで「乾燥」と「強度」の両方を解決するのが「構造用集成材」となります。これも以前解説しているので詳細は割愛しますが、木を薄いラミナという板に加工した後に、しっかりと乾燥してから強度を計測し接着剤で貼り合わせていくことで、強度を数値化した木材となります。これを柱や梁などの主要構造部分に採用することで、木材の大きな短所は解決されます。
次に在来木造の特徴は「接合部の違い」です。多くの在来木造の柱と梁の接合部は、通し柱に「ほぞ」という穴をあけて、そこに梁を差し込む形状です。これは日本古来の寺社仏閣などからもイメージできるのではないでしょうか。しかし、昔の寺社仏閣の建築物と現在の住宅と大きく異なるのが、柱の太さです。昔は8寸(24cm)というような非常に太い材を、通し柱として使っていました。しかし、現在は太くても4寸(12cm)で、昔の半分の太さです。そこに「ほぞ」という穴をあけて梁を差し込むわけです。すると材に残る部分が少なくなり、とても弱くなるという大きなデメリットがあります。
大地震で壊れた木造住宅の中には、この接合部が壊れているものも多くありました。そこで、そのような破損を解消するために開発されたのが「接合金物」です。これは、柱や梁の断面欠損をできるだけ少なくし、柱を金物やボルトなどでしっかりと接合させるという手法です。木材を傷めずに柱と梁を接合させることで、耐震性にも優れた方法となります。
他にもいろいろありますが、木造住宅を大きく分けると以下のようになると思います。
- 未乾燥で強度が不明な木材を使って、ほぞ穴加工の組み方をしている木造住宅
- 乾燥して強度が明確な構造用集成材を使って、ほぞ穴加工の組み方ををしている木造住宅
- 乾燥して強度が明確な構造用集成材を使って、接合金物を使った組み方をしている木造住宅
どれが地震に強い家か、分かりますね。
そして、これまで何度も解説している「構造計算」も地震に強い家を建てるためには重要です。木材強度が数値化されることが、正しい「構造計算」に大きく影響していることも思い出して下さい。
しかし、[1]よりも[2]、[2]よりも[3]の方が高コストであることも事実です。コストと地震に対する安心感をしっかりと見極めながら、より良い判断をされることをお勧めします。
text.後藤俊二(住宅コンサルタント)