「地震が起きた後で、
人が死なない家をつくり続けるために」
一般社団法人耐震住宅100%実行委員会は、日本の木造住宅の耐震性に関して、確かな構造計算等による科学的な検証を行い、独自の推奨基準として「耐震100推奨基準」を策定いたしました。今後、当法人にでは、この推奨基準の普及啓発と共に、既存住宅への耐震改修も視野に入れつつ、日本の木造住宅の耐震化率100%の達成を目指した家づくりを着実に進めてまいります。
■耐震100推奨基準・概要
建物の耐震設計基準には、建築基準法と住宅性能表示(以下、品確法という)による耐震等級があり、建築基準法と耐震等級1は同レベルであるとされています。しかしながら、2016年4月14日に発生した熊本地震において被災された住宅には、充分な耐震性を担保されていたにも関わらず倒壊してしまった事例が見受けられました。
そこで当団体では熊本地震において実際に被災された物件プラン(Y邸プラン)に対して、当団体独自の検証を行い、その結果、建築基準法と品確法による壁量計算を想定した耐震等級1、構造計算(許容応力度計算まで)による耐震等級1は、それぞれ必要な壁量が異なるという事実が判明、それぞれの検討レベルで必要となる壁量の倍率は、下記の表に示す値となり、また、当団体ではこれらの倍率を「耐震100推奨基準」として定めることとしました。
■地震が起きた後で人が死なない家とは?
巨大地震は、多くの生命や財産が一瞬のうちに失われてしまいます。家や町は壊れても復興させることはできますが、人の生命は一度失われてしまうと二度と取り戻すことはできません。大きな震災に遭遇したとき、大切なのは生命を守ってくれる家であり、まず、私たちが生き延びるために必要な時間と空間を充分に確保するこが必要となります。
1995年に発生した阪神・淡路大震災以降、私たちは幾度も大きな震災を経験してきました。それらの地震で失われた多くの生命が発災直後に失われているという事実があります。
上記は主な巨大地震における一例ですが、これらの短い時間のあいだに多くの家が倒壊により圧死や窒息死によって多くの生命が奪われ、あるいは、倒壊した家屋から発生した火災や、津波などの二次災害から逃げ遅れために被害が拡大してしまいました。
大きな揺れに耐え得る空間と時間を保ってくれること。それが、いざという時にあなたやあなたの家族の生命を守る頑丈な家、地震が起きた後で人が死なない家なのです。
■日本の住宅の耐震基準の歴史
地震が多い日本では、大きな震災を経験する度に、耐震性についての技術と基準を向上させてきました。
我が国において初めて耐震性に関する規定が法律として制定されたのは、およそ100年前、1923年の関東大震災直後のことであり、その後、1950年に建築基準法が制定され、全国の建物に耐震設計が義務化されました。これは旧耐震基準と呼ばれています。このとき初めて建築構造物に対する技術的基準が定められました。その後、宮城県沖地震(1978年)を経て、1981年に建築基準法の改正により新耐震基準が制定、震度6強~7程度の揺れでも倒壊・崩壊しないような構造基準として設定されています(旧耐震基準は震度5強程度)。
更に現在では、1995年の阪神・淡路大震災後、2000年の改正では住宅性能規定の概念が導入され、それまでの新耐震基準を耐震等級1として、等級2は1に1.25倍、等級3は1.5倍の力に耐え得る住宅性能表示が規定されています。
■多発する“耐震エラー”を構造計算で精査する
このように、およそ100年の歴史のなかで研鑽されてきた日本の耐震基準ですが、近年の大型地震の被害状況の検証のなかで既存の規定では充分に説明できないエラーが多発しているという事実があります。
2016年に発生した熊本地震では、耐震等級2で設計した住宅が倒壊しています。熊本地震は、前震と本震がそれぞれ震度7を観測するという未曾有の規模の地震であり、震度そのものは阪神・淡路大震災に匹敵すると言われています。本来、耐震等級1は、震度6強〜7程度の揺れでも倒壊しないとされる規定であり、また、その1.25倍の強度を持つ規定が耐震等級2のはずです。しかし、現実には、耐震等級2に適合しているとされていた家屋が倒壊してしまいました。
この事実を解明するために、2016年4月14日に発生した熊本地震において、実際に被災された物件プランを用いて当団体独自に調査検証を行った結果、現行の建築基準法並びに住宅性能表示における耐震等級において、それぞれ構造計算上のギャップが存在していることが判明しました。
(1)建物の耐震設計基準として、建築基準法と耐震等級1は同レベルとされていますが、当団体独自の検証により、建築基準法と住宅性能表示(品確法)による壁量計算を想定した耐震等級1、構造計算による耐震等級1は、それぞれ必要な壁量が異なる。
<震度6強~7程度の揺れでも倒壊しない壁量>
①建築基準法・新耐震基準上の壁量 = 1
②住宅性能表示・耐震等級1の壁量 = ①の1.26倍
③構造計算の壁量 = ①の1.63倍
※建築基準法で必要となる壁量に対して、住宅性能表示、構造計算のそれぞれの検討レベルで必要となる壁量の倍率を示すものです。
(2)住宅性能表示にて設定されている壁量計算による耐震等級は、等級1を建築基準法と同レベル(等倍)とし、耐震等級2を‘1.25倍、耐震等級3を1.5倍と規定していますが、構造計算による今回の当団体独自の調査検証では、それでは不十分であるという結果が出ました。
<構造計算による各耐震等級が要求する壁量>
耐震等級1=建築基準法レベル1.26倍(規定上1倍)
耐震等級2=建築基準法レベル1.58倍(規定上1.25倍)
耐震等級3=建築基準法レベル1.91倍(規定上1.5倍)
(3)上記の(1)(2)により、建築基準法による壁量計算と住宅性能表示(品確法)による3つの耐震等級について構造計算を用いた検証を行った結果、それぞれの耐震強度にギャップが存在していることが明らかになり、これが熊本地震において耐震等級2で設計していた住宅の倒壊の原因の一つと考えられます。
※今回の検証結果に基づく7つケースそれぞれについて、熊本地震の被災実物件をモデル住宅として、木造住宅倒壊解析ソフトウェア「wallstat(ウォールスタット)」によるシミュレーションを行ったところ、構造計算を行った耐震等級3以外は倒壊するという結果となりました。熊本地震前震と同等の地震波に耐え得る耐震性は、許容応力度の観点からは簡易計算上の耐震等級2=建築基準法の1.25倍の壁量では充分ではなく、2.44倍の壁量が要求されるという結果となっています。
また、この2つの図面のパラメーターから解析したシミュレーション(wallstat)による時間及び空間の変移は以下のようになります。
<木造住宅倒壊解析ソフトウェアwallstatによるシミュレーション動画>
■住宅の耐震性能を測る、大切な「構造計算」
日本の住宅の耐震基準は、ここまで見てきたように大きな地震・震災と共に改定されてきました。およそ100年に亘るその取り組みによって、私たちの生活の安全性が向上したことは間違いありません。
一方で、現在の耐震基準も完璧ではなく、東日本大震災や熊本地震のように、過去の経験値や想定を超えた状況には対応仕切れていないという現実を認識する必要があります。また、過去の測定値に沿って改良を重ね続けてきた結果、今回の調査で判明したように、各基準値での矛盾や誤差が生じてしまっていることも強く認識すべきでしょう。
耐震100推奨基準は、そのような致命傷になり兼ねない耐震リスクを極力排除することを念頭に自主制定した独自基準ですが、それは「構造計算」に基づいています。今回は、建築基準法、あるいは、住宅性能評価としての耐震等級との比較において、家を支える壁の量の比較により可視化を試みましたが、重要なことは壁の量を増やすことではなく、確かな構造計算に基づいた家をつくることにあります。
日本の木造住宅は、その構造として「壁で支える家(木造軸組工法)」と「柱と梁で支える家(木造ラーメン工法)」の大きく2つに分類されます。その工法によって家の支え方が異なるものであり、それぞれにその工法ならではの特長や利点があります。特に木造ラーメン工法は、強度を持ちながら吹き抜けなどの大空間を実現できる点が魅力とされています。そのようなデザインの家を建てるためには構造計算は重要且つ必要です。また、正しい構造計算を用いることで耐震性を担保しながら、住まう人の希望に沿った快適な家を建てることができるのです。
耐震100推奨基準は、私たちが皆様にお約束する最低基準です。そして、その上で、私たちは確かな構造計算に基づいた、安心で快適な耐震住宅を提供し続けていきたいと考えます。