What's 耐震

第10回 祖父母の家を耐震改修できる?

2019年1月28日

建て替えや新築をご検討されている方なら、これまでのお話を参考に地震に強い家を建てていただければと思います。しかし、現在お住まいの家のリフォームを検討されている方にとっては、「地震に壊れないためのリフォーム」という選択肢もあるでしょう。そこで今回は「耐震改修」について解説したいと思います。

「耐震改修」とは、現在の建物の耐震性を強化するために行う改修工事ということになります。しかしこの「耐震改修」を語る前に、まず知っておいて欲しいことが「耐震診断」というプロセスです。

「耐震診断」とは、文字通り現在の建物の耐震性について、専門的な視点で調査・診断を行う行為です。お医者さんが身体を診断する「健康診断」と同じような意味でとらえてもらえればと思います。当然のことですが、ご自身が所有している建物について、現在の耐震性のレベルを正確に知るということは「地震に対して安心な暮らし」をする上で非常に重要なことです。

木造住宅であれば、基礎の形状、柱、筋交いの数や位置・寸法など、その構造躯体部分がどのようになっているのかをまず調査してもらうことで、現在の建物の耐震性を把握することができます。特に、建築基準法などの法定な規制が厳しくなかった時代に建築された建物は、耐震性が考慮されていないケースも多いので、できるだけこの「耐震診断」をお勧めします。

この「耐震診断」は、専門的な知識を持っている方が行うことが必須です。例えば「耐震診断士」等の資格を持っている方にお願いするのが良いと思います。「耐震診断士」は建築士の資格を持っている方がほとんどですので、そのような建築のプロフェッショナルにしっかりと診断してもらいましょう。また、地域によってはその費用の一部や全部を「助成金」として補助するところもありますので、地元の役所などに相談してから行っていただければと思います。

専門化による「耐震診断」の結果に基づいて、その建物にとって最適な「耐震改修計画」が提案され、それをベースに「耐震改修」が行われるという流れになります。

ここで、よく問題になるのが基礎部分です。築年数が古い建物の場合、基礎部分に必要な数の鉄筋が入っていなかったりします。更に古い建物だと「布基礎」ではなく、束石のような石に直接柱が乗っているだけの「独立基礎」というようなケースもあります。これを基礎工事から安全なものに改修していくとなると、非常に大掛かりな工事になります。当然費用も大きくなりますが、耐震的に重要な基礎部分ですので、中途半端にしないことをお勧めします。

そして建物上部の構造についてですが、診断の際に問題となる項目が大きく2つあります。

1つは、耐震的に必要となる「筋交い」や「耐力壁」の数とバランスです。「筋交い」というのは柱が倒れないように斜めに取り付けられる構造部材のことですが、その数が充分ではなかったり、配置のバランスが悪いケースです。これは新築工事の際にも問われる項目であり、数が少なかったり、バランスが悪いと耐震性は著しく劣ります。

対策としては、新しく壁を作って筋交いを増やすことや、構造合板などを貼って強度を確保するという工事が必要となります。合わせて、それらをしっかりと接合するための必要な建築金物も施工することになります。古い建物の場合、建築金物を使用していないケースも多いため最新の金物で補強することも大事です。その工事の過程では、窓を小さくしたり、部屋の中に壁を設置したりと、元々の間取りを変える必要が生じるかもしれません。

次に問題となるのが、木材の腐朽などによる劣化です。湿気の多い場所や雨漏りを放置していた場合などは、腐朽菌によって木材が腐っていたり、シロアリ被害にあってしまったりしているケースもよく聞きます。この場合、構造木材の一部やそのものを交換する必要も生じます。そもそもの構造躯体が劣化しているわけですから、このままほっておくと大地震で倒壊する恐れが大きいです。もし、診断の結果、この現象が顕著な場合は速やかに対応するべきでしょう。

このように、「耐震改修」を検討する際には、まずは現在のご自分の住まいをプロの耐震診断士によるしっかりとした「耐震診断」の後に、最適な耐震改修の設計を提案してもらってください。そのうえで、信頼できる建築会社に最適な耐震改修を依頼してほしいと思います。

ただ、「耐震改修」とは、あくまでも現在の古い建物の「改修」ですので、新築の際に行ってほしい「構造計算」が困難ということは否めません。元々の建物が「構造計算」されていれば話は別ですが、木造住宅ではそうでない場合がほとんどですので、理論的に耐震性の高い建物を実現するには限界があります。

また、あまりにも現在の建物の状態が耐震的な問題が大きければ、必要となる工事費もかなり高くなることも予想されます。費用的にも建て替えた方が結果として安かったというケースもあり得ます。そういう場合は、いっそのこと「建て替え」も検討する必要があるかもしれません。

もちろん、その判断基準はコスト以外の問題もあると思いますので、一概には言えませんが、状態によっては「建て替え」も視野において検討されることをお勧めします。そして、もし「建て替え」となればこれまで解説してきたことを参考に、しっかりと「構造計算」がなされた「耐震住宅」を実現してほしいと思います。

text.後藤俊二(住宅コンサルタント)

新耐震基準以前の家を、地震が発生しても安心に住むための耐震リフォーム工事。耐震診断士と打ち合わせを行いながらプランニングをした結果、既存の柱をそのまま残し、壁量の確保、接合部の補強、基礎の補強など耐震補強を実施しながら、内部階段の設置やつながりある広いLDKの空間を実現しました。あわせて防腐・防蟻処理、屋根点検、断熱性、床の防音性などの要素も考慮に施工しました。

画像提供:株式会社実方工務店