What's 耐震

第9回 地震に強い間取りはあるの?

2018年12月25日

地震に強い家にするために構造が大事であることは言うまでもありませんが、実は「間取り」も大きく影響することはご存知でしょうか。家には、「地震に強い間取りの家」と「地震に弱い間取りの家」があるのです。特に、在来木造工法や2×4工法のような構造の場合は、耐震性に間取りが大きく影響します。

地震に強い間取り・弱い間取り

これまでのコラムの中でも解説してきましたが、在来木造や2×4は耐震性を高めるために「耐力壁」と呼ばれる「壁」が多く必要になります。つまり、「耐力壁が多い建物」は地震に強く、「耐力壁の少ない建物」は地震に弱い家になる可能性が高いということになります。実際に、在来木造や2×4で「耐震等級3」を取得する場合、「耐震等級1」と比較すると必要な耐力壁の量は確実に増えてしまいます。「窓が大きくて数も多い家」や「仕切りのない広々とした空間の家」などは、その分どうしても全体的に壁が少なくなってしまいますが、そういう間取りは、総じて「地震に弱い間取り」である可能性が高いと言えるでしょう。

また、建物全体としては一定数の耐力壁はあるけれど、その配置のバランスが悪い間取りも良くない間取りです。

ビルトインガレージ

例えば、「南面は大きな開口窓があるので耐力壁が少ないが、北面は窓が小さいので耐力壁が多い」というような北面と南面の耐力のバランスが悪い間取りです。また「1階がビルトインガレージで前面に壁が取れない間取り」も同様です。特に、間口の狭く奥行きが長い狭小住宅などでは、このようなケースが多くみられます。

平面的にバランスが良いか?

このような間取りの場合は、地震で揺れるとき、南面と北面でそれぞれ異なる揺れ方をするので、壊れる可能性が高くなります。

この耐力のバランスのことを「偏心率」といいます。「偏心率」とは、建物の重さの中心である「重心」と、固さの中心である「剛心」の距離がどれだけ離れているかを計算する手法です。本来は、できるだけ「重心」と「剛心」の距離が近い、「偏心率」が一定の数値内で収まるような間取りにすべきなのです。

広々とした吹き抜けでも強度を保つためには

吹き抜け

また、「吹き抜け」の大きさも影響します。2階や3階の床は構造躯体にしっかりと固定されていることで耐震性を向上させています。段ボール箱の蓋を閉める前と閉めた後で箱の強度が変わるのと同じ理屈です。そこで大きな「吹き抜け」を作るということは、その床に大きな穴を空けるということです。当然ながら構造は弱くなります。「吹き抜けの大きい間取り」より「吹き抜けのない間取り」の方が地震に強い間取りと言わざるを得ません。

しかし、このような理屈をただ並べていくと、皆さんが住みたいと思えるような理想の間取りはできなくなりますよね。「広々として吹き抜けのある開放的なリビングの家に住みたい」という方も多いでしょうし、「大きな窓から明るい光を取り入れたり、外の景色を眺めたりできる家にしたい」とか「ビルトインガレージで愛車を大事にしたい」という方もいらっしゃることでしょう。その希望を取り入れながらも耐震性も高い安心の間取りを計画していくことが、住宅会社の腕の見せ所といえるかもしれません。

構造計算による耐震性の論理的裏付け

そこで、大事になるのが「構造計算」による裏付けです。これまで何度も取り上げたテーマですが、その間取りがどこまで地震で壊れない間取りなのかが、構造計算によって理論的に裏付けされているか否かを検証することは、とても重要な行為なのです。

  • ・耐力壁の量はその建物にかかる地震力に耐える量なのか
  • ・壁のバランスは「偏心率」を計算して問題ないレベルの間取りになっているか
  • ・吹き抜けの大きさはこれで大丈夫なのか
    • 等々

      これらを「勘と経験」ではなく、構造計算によってしっかりと確認することが重要なのです。

      間取りの自由度を高めるラーメン構造

      また、「理想の間取り」と「地震に強い間取り」を両方叶えるために、最適な構造を選択するという考え方も重要です。壁で支える在来木造や2×4ではなく、柱と梁の接合部が強固で、躯体自体でも強度を持つことのできる「ラーメン構造」で計画することで間取りの自由度を高める解決策です。前々回でも解説しましたが、「ラーメン構造」では耐力壁が少なくて済むので、大きな開口部や壁の少ない広々とした空間が安全に設計することが可能です。そのうえで、構造計算で耐震性を検証し、安全な建物を設計していくことが理想的でもあります。

      当初は広々とした空間は必要ないという方でも、将来の間取り変更やリノベーションを想定した場合には「ラーメン構造」は有効です。当初の間取りのまま間仕切り部分に耐力壁をたくさん入れると、耐震性は向上しても将来間取り変更をする際に壊せない壁となり、結果としてリフォームがしづらい家になってしまうというケースもあります。「ラーメン構造」の特徴を生かして、あえて部屋の間仕切り壁を耐力壁にしないで設計することで、将来の自由度も大きく向上します。

      構造と間取りを分けて考えるスケルトン・インフィルの家

      「理想の間取り」と「地震に強い間取り」どちらも重要だと思います。それぞれを妥協せずに、理論的に裏付けられた設計と技術で実現していただければ幸いです。

      text.後藤俊二(住宅コンサルタント)